えらべる倶楽部流 ナチュラリスト入門

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7月

酪農の大地・北海道を訪ねる〈前編〉

企業化する酪農家――さくら牧場の試み

生き物相手の、気を抜けない仕事

豊富町で酪農家の二代目として生まれた岡本金男さん(写真)。終戦直後の昭和20年代半ば、それまで開拓地で何もなかった付近一帯で酪農が始まり、岡本さんの父親も周りの仲間と支え合いながら、牛の育て方から一緒に覚えてきたといいます。酪農と言ってもただ牛を育てるだけでなく、飼料作りから搾乳まで、仕事の内容は多岐にわたります。

豊かな自然のもとで、生き物と共に暮らす――それは魅力的である一方で、なかなかハードな毎日でもあります。
「牛も人間と同じで、一頭ずつ身体も性格も違う。生き物相手だから気を抜けません」と話す岡本さん。「一番心がけているのは、牛を衛生的に育てること。単に牛舎をきれいにするだけでなく、身体の汚れをこまめにチェックして手入れをしてあげる。大変な手間だけど、牛はそれを感じとってくれていると思います」。ひいては、それがおいしい牛乳づくりにも繋がるのでしょう。

企業化によって酪農の体制改善を図る

そんな岡本さんは、2000年に「有限会社さくら牧場」を設立。その背景には、酪農業が慢性的に抱える人材不足があります。これは農業全般に言えることですが、新規就農希望者が数万人を超えると言われる昨今、いざ仕事に就いても長く続かないケースが多く、問題になっています。そんな中、岡本さんは酪農における雇用面の改善を追求した結果、2つの理由で企業化を決意。1つは「会社」とすることで就農希望者に対するイメージアップを図ること。もう1つは、従業員の安定した雇用を確保することです。

「酪農は年中無休の大変な仕事ですが、企業化によって役割分担やシフト制を取り入れ、心身ともにゆとりをもって取り組める体制を目指しました」(岡本さん)

2001年からはウェブサイト(http://www.sakura-farm.com/)でも求人を開始。現在は岡本さん夫婦と、獣医である次男の健吾さんに加え、育成・搾乳の主任が各1名と、8名の研修生が働いているほか、大学生の研修生なども随時受け入れています。
ちなみに、健吾さんはこの7月にご結婚されたばかり。お相手はさくら牧場の元従業員で栃木県ご出身の里沙子さん。家族も増え賑やかさも増す中、さらに現在8名の研修生のうち3名は中国から来ているそうで、地域・国籍を越えた人材が集うのも同牧場の特徴となっています。

目指すのは“循環型酪農業”と“人材の創造”

6〜9月はちょうど牧草の収穫時期。刈り取られた牧草は「ロールベール」と呼ばれる円筒状の形に丸められ、雨に濡れないように保管されます。粗飼料自給率100%というのも、さくら牧場のこだわりの1つです。さらに同牧場では、乳牛の排泄物を発酵・乾燥させる「戻し堆肥」施設を導入。排泄物を一切排出しないだけでなく、戻し堆肥を牛舎の床材として利用し、完全なリサイクル運用を可能にしています。

「特に手間をかけなくても、餌を与えて育てて搾乳すれば牛乳は作れます。でも、人間と同じ生き物を相手にしているんだから、その点では人間も牛も対等で、上も下もない。牛は体調が悪くても何も言わないけれど、牛から信頼されていれば、ちゃんとサインを送ってくれます。それをこちらが感じ取ってあげなければならないから、基本的に牛が好きじゃないと務まらない仕事です。やっぱり最終的には能力というより“人”ですね」(岡本さん)

いろいろ厳しい条件の中、それでも酪農の魅力を信じて日々改善に取り組む――こうした人たちによって現代の酪農は支えられているのです。

次号では実際に働かれていらっしゃる方をご紹介いたします。

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次号予告

酪農の大地・北海道を訪ねる〈後編〉

8月下旬公開予定